ルビーアイ Vol.003

◇宿場町カラルにて◇

行き交う馬車に、往来する人の群れ。
カラル、この辺りで一番大きな宿場町だ。

白い馬をひくルビアンをすれ違う男達が振り返る。
「みんなルビアンを振り返るよ。」
「そ、そりゃぁそうだろ。あの短いスケスケの服に真っ白な剥き足だからなぁ。
 こーんな田舎町には刺激が強すぎるってもんだぜっ。」
「そうだよね。ルビアンみたいに綺麗な人見たことないし、弟子として鼻が高いよね。」
「ティナだって相当な美形なんだけど、ルビアンのあの色気の前ではかすんじまうなぁ。」
鼻の下を長くしたガストンとサンが馬と荷車をひきながらルビアンのあとをせっせとついていく。

「おい、見ろよ。」
「ん? おっ、なかなかのもんだな。」
おそろいの青い制服を着た男たちが5人、町の入口付近にたむろしている。
「槍持ってるぜ。これはいい。」
「女の修行者ってのも今時珍しくはないが、これだけのタマはめずらしいな。」
「横の女も結構いけてるぜ。」
5人の男達がルビアンとティナのそばに寄ってくる。
「お嬢さん、修行者かい?」
声をかけてきたリーダーっぽい男をルビアンがチラッと横目で見る。
「ん〜、きれいな目だ。ゾクッとくるぜ。」
リーダーの隣の男がニヤニヤしながらつぶやく。
「修行者なら、俺たちの道場に寄ってかないか?
 俺たちの道場はこの辺りでは最強ってことで有名なんだぜ。」
歩み続けるルビアンの横に並びながらリーダー風の男が言った。
「私は修行者ではない。近寄るな。」 
ルビアンが冷たく応える。
「近寄るなとは、ご挨拶だな。そんな立派な槍もってるなら相当な使い手なんだろ?
 どれだけの技前なのか俺たちが見極めてやるぜ。それともその槍は飾り物かい?」
リーダーの男は顔を突き出しルビアンの脚をとめようとする。
道場の門下生など、腕自慢の者が町の入口に陣取り、外から入ってくる修行者たちにちょっかいをだし果し合いにもちこむこは多い。
果し合いになれば金が動くし、腕と名を上げるチャンスでもある。
また果し合いといっても、先に木剣を抜けば木剣同士での試合になり命のやりとりにはあまりいたらない。
「しつこいぞ・・・ケガをする前に立ち去れ。」
ルビアンが静かに言う。
「なんだって、よく聞こえなかったな。もう一度言ってくれないか?」
とリーダー風の男。
「ケガをする前に立ち去れと言ったんだ。」
「なんだと、下手に出りゃつけ上がりやがって、この町での礼儀作法を教えてやるぜ。」
リーダーの横の男がすごむ。
ティナが不安げにルビアンの左腕にしがみつく。

「ジェル、なにか騒がしいな?」
白い馬に乗った若い騎士が年配の騎士に言う。
「喧嘩か、果たし合いでしょうか。ちょっと見てまいります。」
あごひげをはやした男が黒い馬から降りて人ごみをかきわけていった。
雑踏の中心には槍をかまえた女性と5人の男達が対峙していた。
男達はそれぞれに木剣を抜いて構えている。
「女相手にお前らひきょうだぞ!」
「それでもセガル道場の門下か!」
「腰抜けめ!」
周りをぐるりと囲む観客から罵声がとびかう。
果し合いを観るために町の入口付近には普段から人が集まってきている。
「お嬢さん、5人同時はむりだぜ!」
「あぁ、こいつらこんなさえない風体だが剣士1級ライセンス保持者もいる。5対1は無理だ!」
どうやら5人同時にとはルビアンが望んだことのようだ。
果し合いでは明らかに自分が不利になるような希望は飲まなければならないというのが一般的で
今回の場合はルビアンが5人同時を望んだ以上、かっこ悪くても男達は5人で戦わなければならない。
「ちっ、なめやがって!」
女相手に5対1、観客の誹謗・中傷、そして最低の掛け率、これ以上ないくらいの不名誉な果し合いになってしまった。
「くっそう!!」
男達の怒りがひしひしと伝わってくる。

「こ、これはいかん!」
ジェルと呼ばれていた男が中央に歩み出ようとした瞬間。
女性の槍が弧を描いた。
3人の男達が悲鳴とともに転げまわる。
1人はそのまま倒れこみ微動だにしない。
残りの1人にもすかさず柄尻での突きが炸裂、後方のぶっとんだ。
「な・・・なんと!」
初老の騎士の目が大きく見開かれた。
回りから驚きの歓声が沸きあがる。
2人はダウン。
地を転げまわる3人の脚は折れ曲がっている。
大量の出欠がないことからも槍の柄の部分での攻撃だ。
真剣には真剣で、木剣には木剣で挑むのがならわしだ。
みごとな槍さばきを見せた女性に人々がドッと群がり、口々に褒め称える。
すぐ横ではお金のやりとりが行われている。
修行者同士の果し合いが賭けの対象になるのはどこも同じだ。
そして賭けに勝った者が配当の一部をご祝儀として果し合いの勝者に渡す。
ガストンはこの短時間にちゃっかり掛け金を何倍にもした上に、サンとともに帽子を持ってご祝儀を集めて回る。
「はい、はい、美女の華麗なる槍さばきにご祝儀〜、ご祝儀〜」
賭けに勝った者以外もルビアンの勝利を祝いご祝儀が集まる。

「ジェル、見たか今の?」
「ええ、ランディス様。目の覚めるような槍術でしたな。どこのご家中か聞いて参りましょう。」
といいながら人ごみをかきわけルビアンの方へ歩み寄る。
「なんと素晴らしい槍さばき!こんなみごとな槍術、今までお目にかかったことがありません!!」
ルビアンがジェルと呼ばれていた男のほうを見る。
「おっ、これは失礼しました。私はマドセンス公国のジェル・ランチェスタと申します。こちらは・・・」
ジェルの後を追ってきた若い騎士が
「同じくマドセンス公国のランディス・ベルモアといいます。以後お見知りおきを。」
と言ってジェルとともに騎士の礼をする。
「私はルビアン、こちらは私の姫君、ティナといいます。」
ティナが両手でスカートの端をつかみ足を軽く折り、侍女の挨拶をする。
「おー、これはまたなんと可憐な姫君でありますか。」
ジェルがティナをまぶしそうに見ながら言う。
そしてルビアンを振り返り
「あの目にもとまらぬ槍術、さぞ名のある大将軍様か、大剣豪様とお見受けしますが・・・」
と続ける。
「私はただの旅人だが。」
「そうでしたか。いや、実は我々も修行の旅の途中でして名は隠しております。」
とジェルが笑いながら言う。
「マドセンス公国のジェル様とカーチス様ではないのか?」
とすかさずルビアンが微笑みながら応える。
「あっ、いや、はははははははっ!」
ジェルが大声で笑う。
「ふふふ・・・」ティナがつられて軽く笑った。
「調子がいいのがとりえでして。」
ランディス
「いや、この町には有名な剣豪と称される人物がおりまして、今から会いに行くところなんですよ。
 どうですか、ごいっしょに?」
とジェルが誘う。
「いや、我々は旅をしているだけなので遠慮しておく。」
「そうですか、それは残念。では、無骨者2人で参りましょうか、はははははっ。」
「無骨者?」
ランディスが自分を指差しルビアンとティナの顔を交互に見る。
「ん、ふふふっ」ティナが笑う。
「この町にはいかほどご逗留の予定ですかな?」
「2・3日のつもりだ。」
「我々も同じです。又、お会いできると良いですな。」
颯爽と去っていく2人を見ながら。
「俺たちのこと気づきもしなかったぜ、あの騎士さんたちよ。」
とガストンがぼやく。
「騎士さんともなると女性しか目に入らないのかもね。」
とサンがいやみっぽく言う。
それを聞いてティナがクスクス笑う。
「さ、金もたんまり儲けたし、飯にしようぜ。」
とガストン。
「賛成!」とすかさずサンが手を上げる。
横でティナも手を上げている。
落ち込んでいたティナも少しずつ元気を取り戻してきているようだ。

食堂に向かう道すがら、
「そうだ」
ルビアンがガストンのほうを見て手を出しよこせと言わんばかりに人差し指を動かす。
「ん? お? おーっ、こ・これ、上納金。サンお前も半分よこせ。」
麻袋にさっきの儲けの半分を入れてガストンがルビアンに渡す。
ルビアンはポンポンとその袋を上に投げて確認する。
「上出来だ。」
ルビアンがガストンとサンを誉める。
「へっへっ、金のことならまかせな。俺がうまいもんたらふく食わせてやるぜ!」
しぶしぶ半分を渡したガストンもルビアンの笑顔をみて上機嫌だ。
サンはティナと顔を見合わせて笑っている。

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◇宿屋にて◇

見渡しのいい、最上階の部屋。
間取りも広い。
声を張り上げても回りにあまり迷惑のかからない部屋ということでルビアンの指定だ。
部屋の希望を聞いてビビリまくるティナをなだめすかして連れてきたところだ。
「廊下で寝るの?また襲われても知らないわよ。」
ルビアンが優しい笑顔でティナに手を差し出す。
その笑顔を見て恥ずかしそうにティナが手を添える。
しっかりティナの手を握り部屋に招き入れながら
「大丈夫よ。優しくしてあげるから。」
と耳元にささやく。
ティナの羞恥心をあおって楽しんでいるようだ。
それを聞いて耳たぶまで真っ赤にして部屋に入るのをしぶるティナ。
右手でティナの手を握り左手で肩を抱き部屋に連れ込んだ。
そのままベッドまで誘われるティナが
「あ・・・お、お風呂に・・・まだ、・・・」
と恥ずかしげに言う。
「何言ってんのよ。汗と体液で今がちょうどいい味わいになってきてるころだっていうのに、それを洗い流してどうするの?」
わざと官能的な目でティナに微笑みかける。
それを聞いてフラッとくずれるティナを抱きかかえベッドにむかう。
「ル・ルビアン、や・・・やっぱり女同士で、そんなこと・・・」
「べ・つ・に・女同士なんて、貴婦人のたしなみでしょう♪」
あら、知らないの?って言わんばかりにルビアンが目を丸くする。
「えっ・・・そ、そうなんですか?」
ティナが消え入りそうな声でさえずる。
「殿方とではいろいろまずいことが多いでしょう?
 だからよくお気に入りの娘とかを侍女にして、毎晩たしなむのよ。
 貴女ももう覚えてもいい年頃よ♪」
ルビアンは抱いていたティナをベッドに横たえた。
「あ、ル・ルビアン・・・やっぱり、ちょ・ちょっと待っ・・・」
ルビアンの口がティナの唇に重なり合い、それ以上しゃべらせなっかった。